八名信夫の うまいもん紀行


函館の回転寿司
まるかつ水産

函館にプロの魚屋がいる。
北海道の函館と言えば、いか、かに、ほっけ、鮭… 昔からうまい魚が獲れるところとして有名だ。
その函館で、親の代からの魚屋を受け継いで、
「日本一うまい魚を、最高にうまいままで全国に届けよう」と、
毎日社員たちと一緒に頑張っている社長がいる。
函館「魚長食品」の社長、柳澤勝さん。俺の二十年来の友人で、いつ会っても元気いっぱい!

毎朝4時起き。社員全員が店に集まって、みんなゴム長靴に履き変えて、【魚仕事人】になる。
「八名さん、私がこのゴム長を履いている時は、どんどん儲かっている時。
でも、ゴム長から革靴に履き変えたら、カネがどんどん外に出て行くから、用心しないとネ」
柳澤社長は、楽しそうに笑いながら市場に入って行く。

市場には、目の前の海から獲れたばかりの魚たちが次々と並べられていく。
そして、社長が買った魚が店に運ばれて、たっぷりの水を流しながら、手早く処理される。
全国の得意先への発送。近郊近在のホテルや旅館、料理屋、よその店へ運ぶ人。自分の店に並べる人。
どんなに寒い真冬の早朝でも、社員のみなさんは実によく働く。

「私たちは魚屋ですから」そう言ってのける社長だが、実は誰よりも社員思い。
「うちのおふくろが、いっつも言ってたんですよ。
どんなに苦しい時でも、働いている人たちには腹いっぱい食べさせなさいってネ」
早朝から一生懸命働いた社長と社員の皆さんは、店の中にある食堂で、新鮮な魚をおかずに腹いっぱい食事をとる。
「このイクラの醤油漬け、丼のご飯にテンコ盛りにかけて食べなさい。鮭のハラスは?」
と、社長は全員に声をかけながら食べる。潮焼けしたまあるい顔に、思いやりあふれた眼差し。

いつ会っても、エネルギッシュ。まるで北海道の未開拓の大地に挑むブルドーザーのように、
前へ前へと、人の何倍もの勢いで突き進んでいる。
「うちの社長はネ、おいしい物をいただくと、みんなで食べたいって言うんですよ」
と、社長の片腕の女性がにっこり笑顔で話してくれた。
俺は、この前贈った岡山の白桃、足りたかなあ?などと思ったりする。

魚長の柳澤社長は≪函館の魚≫をべースに、
函館をなんとかしよう。もっともっと全国においしい魚を届けよう。
もっと沢山のお客様に足を運んで貰える魅力ある函館にしていこうと、
先頭を切って【函館づくり】に頑張っている。

港を中心に、サンフランシスコかどこかのように、函館が洒落た港町に変わって来た。
廃倉庫が並んでいて寂しく暗かった海岸に、ガラス貼りやレンガの店を造り、港にはクルーザーを浮かべた。
冬は大きなクリスマス・ツリーがライトアップされる。
函館は全国の子供から大人迄、みんなが楽しめる街に変わっていった。

一昨年、社長は回転寿司屋をオープンした。
≪まるかつ水産≫。社長の会社の屋号でもある。
俺は寿司が好きで、全国どこへ行っても寿司屋をのぞいている。
生まれた時からの魚屋の社長のこと、きっとこだわりがあるのだろう。
それはネタだろうか?そうだろうななどと思いながら、店を訪ねた。

カラッと戸を開けて入って行ったら、
回転寿司屋によくあるゴチャゴチャした慌ただしさが見えない。
木の香り、外からの日差し、函館港町ののんびりした居心地の良さが自然に出ていて、
入った途端に気にいった。
店の真ん中にある回転台も、お客様の椅子とテーブルの並びがよそとは違っている。
回転台に向かって、せっせと寿司を食べるというよりは、
好きな寿司を取って、家族や仲間同士が向かい合って食べる。
会話もはずむし、みんなで寿司を楽しめる。そういう店づくりをしている。

もっと驚いたのは、お客様の注文を貰ってから、板さんが一つ一つ丁寧に握っていることだ。
小さな寿司に一つ一つ名前を書いた旗がついて回っている。
「一番食べていただきたいのは、地元のネタ。これはいろいろ工夫しました。
よそでは食べられない【地元のネタ】、これがうまいんですよ」

「社長のことだから、毎日チェックしに来ているでしょう?」
「そりゃあ来ますよ。毎日チェックしなきゃならないですからネ」と、社長。
「あのネ、私がここでチェックするのは、米です。どの地方のどの米を使うかは決めてはいますが、
同じブランドでも、水の具合やとぎかた、米を扱う人の調子、火の調子。
ちょっとしたことでも味や固さが違ってくる。おいしい寿司は、お米がおいしい。
いつも突然来て、チェックするんです。これは、私が厳しくしないとネ?」と。
回転寿司なのに、と思うかも知れないが、これがプロの魚屋。プロの商売人の仕事なんだよなあ。

寿司好きの俺としては、イカ、中トロの他に、社長自慢の地元ネタも食べてみた。
流石、今朝市場から持って来たネタばかり。
新鮮。しかも魚屋のプロだから、ネタが最高にうまい時に出してくれる。
うまいなあ!
一口ごとに、魚仕事人の魂が伝わって来るようだ。

追伸
実は、柳澤社長は昨年(2007年)11月、突然亡くなった。
でも、社長の夢、魚仕事人の味はきちんと伝えられているから、
是非函館へ、まるかつ水産で寿司を楽しんでみて下さい。

回転寿司 函館 まるかつ水産
〒040-0065 北海道函館市豊川町12-10明治館通り 函館ベイ美食倶楽部内
0138-22-9696
http://www.hakodate-factory.com/sushi/
※東京ミッドタウン店がオープンしました。
〒107-0052 港区赤坂9-7-3 東京ミッドタウン B1F カジュアルダイニング
03-6804-6888


※写真はまるかつ水産様のサイトから、許可を得て転載致しました。

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