八名信夫の うまいもん紀行
内子座と 鯛のかぶと煮 〜愛媛県 内子町〜 |
俺がほっと出来るのは、内子座と、内子のねえちゃんのかぶと煮だ。
内子へ行って、内子座を訪ねると、それだけで安心する。
実家に帰った時のような。
「お、元気か?」黙っていても気持ちが通じるような、そんな芝居小屋だ。
白壁、瓦屋根、空に突き出ている太鼓櫓(たいこやぐら)。
大正・昭和初期には、櫓から太鼓の音が聞こえて来ると、今日は芝居があるなと
町の人たちは、うきうき楽しみにしたそうだ。
ここで初めて悪役商会の舞台をやった時、朝7時から、お客様が並んでいた。
「まだ5時間もありますよ」
「いいんです。待ってますよ」
内子の方たちは、笑顔で待っていて下さった。
「じゃあ、この縁側で順番に並んで座って待っていて下さいね」
うちの俳優たちと、内子座を守っている「ふれたいこ」の高田武則さん初め
皆さんがお客様を誘導した。
俺たちの為に、こんなに沢山の方々が並んで下さった!
小屋は満員! 楽の日には、550席のところ、740人も来て下さった!
内子座が喜んでくれている!
お客様がどっと笑うと、内子座が笑っているように感じた。
「内子は、木蝋で栄えた町です。その木蝋で巨万の富を得た豪商の人たちが
大正5年(1916)に建てたのが、内子座です」
最初訪ねた時、高田さんが教えてくれた。
時代の流れと老朽化で、内子座が取り壊されそうになった時、
真っ先に反対したのが高田さんたちだった。
≪ふれたいこ≫という仲間をつくって、内子座に芝居を掛けて
内子座を元気にして来ている。
内子座の花道、舞台、客席。
何人の役者たちが、ここで汗を流し、お客様を楽しませて来たことか。
内子座を訪ねる時は、役者として良い顔で会いたい。
いつも、胸を張って会える仕事をしていたい。
それが、俺の内子座なんだろうなあ。
内子へ行くと、
「お帰りなさい!」と、みんなが声をかけてくれる。
真っ先に、旅館【松乃屋】の高田さんと智子さん夫妻。
魚屋の【かつ盛】(かつもり)さんも、飛んで来る。
「八名さんが来るって聞いたから、イカのうまいところを仕入れたから」
ぶどうに桃、柿と、みんなが持って顔を出してくれる。
ふるさと以上のふるさと、あたたかい人情の町なんだ。
夜の楽しみは、【呑喜】(のんき)の料理。 鯛のかぶと煮が最高だ。 なにしろ、魚屋の【かつ盛】さんのねえちゃん(酒井典子さん)がつくるんだから、 今朝市場で仕入れたばかりの活きの良い鯛だ。 その鯛のかぶとを、こってりしたうまい味付けで煮込んで。とろけるようにうまい! 又、その横についてくるゴボウがたまらない! 「八名さん、うちのねえちゃん、料理、上手でしょ?」 かつ盛さんは、嬉しそうだ。【呑喜】のお客さんもみんな、気持ちが良い。 |
【かつ盛】さんとねえちゃんは、小さい時に両親を亡くして、
苦労をして、魚屋を守って来た。
お客様の為に、お客様が望んでいる魚をと、力を合わせて頑張った。
姉弟の真面目な働きぶりに、周りの料亭や店、旅館が応援してくれて、
今では町一番の魚屋になっている。
「お客様のお陰です」と姉弟。
この心のこもった料理の味は、どんな有名な料亭でもかなわない。
内子のみんなに支えられて、うまくなった【呑喜】のかぶと煮。
内子に行かなければ、味わえないところが、いいじゃないか。
旅館 松乃屋
〒791-3301 愛媛県喜多郡内子町内子1913
0893-44-5000
http://www.dokidoki.ne.jp/home2/matunoya/
かつ盛・呑喜
〒791-3301 愛媛県喜多郡内子町内子1967
内子座
〒791-3301 愛媛県喜多郡内子町内子2102
0893-44-2111(内子町役場)
http://www.town.uchiko.ehime.jp/sightseeing/kankou_uchikoza.php
久しぶりに、内子を訪ねた。
「呑喜」のねえちゃんは、テーブルにあふれるくらい
ごちそうを作って、待っていてくれた。
「八名さんの“うまいもん紀行”の【かぶと煮】
食べに来ました、って
遠くから訪ねて下さる方々がいらっしゃるんです」
と、嬉しそうだった。