八名信夫の うまいもん紀行


緑の中のカレー屋さん
〜とんがり帽子 伊豆大室高原〜

昔、横浜の老舗のホテル2階で、カレーを食べる会があったそうだ。
決まった日に、横浜の著名人たちが集まって、そのホテルのカレーを食べた。
洒落てるな、と思って、そのホテルでカレーを食べてみた。
そこのカレーには、缶詰のパイナップルとジャムが付いていた。
これが、我々と違うところか?
そう思いながら、銀杏並木と港を眺めて、力レーライスを食べていた。
著名人さんたちは2階で、俺は1階のカレーだったから、カレーが違うかも知れないが…。

伊豆大室高原にも、カレー好きが集まる店がある。
一碧湖から大室高原へ向かう道の途中、緑の林の中に、
童話の絵本に出て来そうな建物がある。
黄色い壁、横にはレンガのサイロ。
名前は【とんがり帽子】。
子供の頃、ラジオから流れていた懐かしい歌が
聞こえて来そうだ。
(でも、その歌からつけた名前ではないそうだ)

悪役商会の稽古場が近くにあって、
15〜6年前、うちの若い連中と入って、
それからすっかりファンになってしまった。
カレーがうまい!
じっくり煮込んだ、丁寧な味がする。
カレーの辛さに、まろやかさ、奥行がある。
おいしそうな色。ライスにかけた時のサラッとしたとろみ。
食べれば食べるほど、うまくなる。
そして、また食べたくなる。
伊豆に行ったら、【とんがり帽子】に寄ろう!
そう思うカレーになってしまった。

それから、俺が気に入ったのは、カレーに付いて来るコールスロー。
キャベツをザクザクッと切って、甘目の酢につけたものなんだが、
これが最高にうまい!
いつも、カレーが出て来る前に食べてしまって、
「もういっぱい!」と言いそうになる。

【とんがり帽子】には、いつもカレー好きが集まっている。
ここは、大室高原でも、店が並んでいる通りではない。
林の中の一軒家。
【とんがり帽子】のカレーを、訪ねて来る人たちばかりだ。
仕事の合間の作業着姿の人たち。車で旅行中のグループ、
近くの別荘でゆっくり暮らしている家族…。

ビーフカレー、骨付きチキンカレー、肉汁たっぷりサクサクメンチカレー、
日本一大きなびっくりチキンカレー…

カレーをゆっくり味わって、コーヒーか紅茶。
窓から緑がたっぷり見えて。
高原の林を渡って行く風も、心地よく。

【とんがり帽子】のカレーは、山本幸彦さんと直美さん
夫婦の“人の味”。
すぐ来ても、何ヶ月ぶりに来ても、
「やっぱりおいしい!」「このカレーを食べたかったんだ」
と思わせてくれる山本さんのカレーづくり。
カレー好きのお客様を、こんなに引き付けているのは、
山本さんのこだわり。丁寧に手をかけた料理だからだ。
北海道の帯広。手ぬぐいも凍るというシバレル街から
伊豆へやって来て、舌の肥えたお客様にも楽しんで貰おうと
道産子魂でカレーをつくっている。
厨房から出て来る時、本当に楽しそうな顔をしている。
お客様に喜んでもらうことが、生きがいなんだろうな。
そして、直美さんがまた、明るく、お客様一人一人に上手に触れ合って。
あの、サラッとした心配りがお客を引き付ける。
山本さんのカレーには、コールスローと直美さんが付いている。
【とんがり帽子】のカレーは、よそでは真似の出来ない夫婦の味だ。

「お前を看取る迄、俺がカレーをつくっているからナ」
「私より、うんと年上なのにね」
大きな声で笑う二人。
伊豆大室高原へいらっしゃい。とんがり帽子のカレーは、幸せをくれるよ。

とんがり帽子
〒413-0235 静岡県伊東市大室高原4-507
0557-51-7238
http://www7.ocn.ne.jp/~tongari/


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