八名信夫の うまいもん紀行


塩トマト

俺はトマト食いで、朝昼晩、トマトさえあればご機嫌だ。
子供の頃は、どこの家にも畑があって、トマトやキューリ、茄子などを植えていた。
トマトが大きくなるのをジーッと待って、赤く色付いたのをガブッとかじった時の
うまかったこと!
おふくろが砂糖を小皿に盛ってくれて、トマトをつけて食べる。うまかった!

俺が、最近気にいっているのが「塩トマト」。
皮がかたくて、小ぶり。実がしっかりしまっている。
歯ごたえが良く、噛んだあとに甘いうまみが口いっぱいにジュワーッと広がる。
最近のトマトは、見た目はいいが、食べてみるとナンカ物足りないというのが多い。
が、塩トマトは最後の一口迄、しっかり楽しませてくれる。
何でも、塩トマトは過保護な育て方をしないらしい。
塩分の強い土地で、水もやり過ぎず、手もかけ過ぎない。
自分の力で大きくなれと、厳しく育てる。
そうすると、トマトはうまいトマトになろうと、土地から栄養をしっかり吸収する。
雨や日差し、風からも力を貰う。自然の中の力をしっかりつかんで、育って行く。

塩トマトは、他のトマトより実が小さい。
でも、うまい! そして高い!

ある日、熊本県八代から「塩トマト」が2箱、どーんと届いた。
住所も名前も、心当たりがない。手紙も入っていない。
箱の中には、大きくて立派な塩トマトが並んでいる。
まるで俺に「食べて下さい。早く早く」と呼び掛けているようだ。
事務所の者が電話をしてみた。
「あのー、塩トマトをいただいたのですが…」
「ああ、ごめんなさいね。忙しくて手紙も入れてなかった。
 八名さん、塩トマトが好きでしょ?
 こんなにおいしい塩トマトが出来たから、食べて貰いたいと思って、送ってしまったの」
威勢の良い熊本弁が返って来た。
「うちは、肥料屋さんなの。トマトはネ、楽しみでつくっているの。
 おいしいわよ。もう少ししたら、メロン。塩メロン、これが又おいしいの。
 デコポン、知ってる? うちのデコポンが、食べたことないくらい、おいしいの。
 楽しみにしてって、八名さんに伝えてね。昔からのファンなの。
 でもね、私が好きで送るんだから、気を使わないでね」
明るく、からからっと笑う奥さんだ。

すごい!
俺は塩トマトにかぶりついた。
八代の奥さんのトマトは、俺たちが子供の頃食べたトマトと、同じ形。中くらいの大きさ。
味はうまい! ともかく、最高にうまい!

塩トマトの食べ頃になると、心優しく太っ腹の奥さんがちゃんと届けてくれる。
そして、俺は仕事先に、塩トマトをしっかり持って行く。
俺の生命のトマトだな。
「八名さんからのポスター、店に貼っといたら、近所の人たちが
 なんで? なんで? って聞くのよ。ははは」

いつか、ひょこっと店に顔を出して、塩トマトの奥さんをびっくりさせたいナと思っている。
奥さんが、塩トマトを送ろうと思って下さるくらい、
俺も俳優としてシャンと、ツッパッテ生きていかなきゃなあ。
そっちの方が大事だな、きっと。

※ 宮崎の「わたしのトマト」、静岡県大井川町の「アメーラ」、長野トマト、高知のトマト…
みんな、それぞれにおいしい。
今回は、俳優の生き方、子供たちの育て方に近いものを感じる、「塩トマト」のことを、書かせて貰った。

八代商店
〒869-5155 熊本県八代市水島町12-3
0965-35-1734


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