八名信夫の うまいもん紀行

タパス＆タパス（東京・用賀店）

悪役の俺が言うのもなんだけど。
店はまず愛敬。
前を通っただけで、「ああ、入ってみたいな。ナンカうまそうだな」
そう思わせることが大事。
そして、一歩入った途端に、「いらっしやいませ!」と、明るい声と笑顔で迎えてくれる。
「ああ、入って良かった」と、お客様をわくわくさせる。これも大事。
平成元年、原宿に「悪役商会の店」を造った時、 うちの俳優たちにそのことをとことん教え込んだ。
だから、うちの店は人気があった。
「悪役商会の店」についてはいずれ話すことにして。

東京は用賀。
用賀は最近、洒落たビルや店が多くなって、なかなかの穴場スポットになっている。
そんな店の中で、
ヨーロッパの片田舎のような、ちょっとした花壇に草花が咲いていて、小さなべンチや壺がおいてある店がある。
「あ、ここはイタリア料理の店だな。ちょっと古そうだから、きっとうまいぞ」
用賀だから、頑固な親父さんと奥さんがやっているのかな？と思いながら扉を開けると、
「いらっしゃいませ！」左の厨房、目の前の店員さん、奥でサービスしていた店員さん、
みんなが明るく一斉に声をかけて迎えてくれる。
お、若い人たちの店なのか？

厨房ではピザを焼くいい匂い、パスタの匂い。軽快に働くシェフたちの姿がみえる。
イタリアの店のように、木のテーブルと椅子がくっつきあうように並んでいて、
いっぱいのお客様が楽しそうに食事をしている。
「こちらへどうぞ」若いお嬢さんが奥の席へ案内してくれる。
うまそうな匂いに、急に空腹を覚える。
「俺はピザ。パリパリのが好きなんだけど。パリパリの」
「ございます。こちらが…」と、メニューのピザのカラー写真を指差す。
「シンプルなのが良いな。パリパリで。ホラ、なんかチーズとトマトと、香りの葉っぱがのっている」
「マルガリータ、これでしょうか?」と、メニューの中から一番うまそうな写真を示してくれる。
「そうそう、これこれ。この何にものってない、シンプルなの。で、パリパリ」
「はい」
「私は…パスタ…あのー、ナポリタンみたいのありますか？」
連れの者が、パスタのメニューを見ながら、そんなことを言う。
「ああ、トマト味ですね？こちらはいかがですか？」と、トマト味の海鮮パスタを示す。
「ああ、それでお願いします」と、連れ。お嬢さんが遠くへ行ってから、
「イタリアンの店に来て、ナポリタンなんて言うのって失礼よね」と苦笑している。

イタリアの庶民の店の雰囲気で、飲み物も大きめのコップにいれて
「お替わり自由です」と笑顔で運んで来てくれる。
家族連れ、職場の仲間、女性同士、夫婦…店が楽しそうな会話でいっぱいだ。
「あのー、ナポリタン、出来るそうです」と、係のお嬢さんが知らせに来てくれた。
「ええ？頼んで下さったの？嬉しい！ありがとう！」連れは大喜び。
そんなわがままに迄答えてくれる、若いスタッフの皆さんの心配りに俺たちは感激して、
食べる前から「良い店に出会えて良かったなあ」と喜んでいる。

そして、運ばれて来たピザ！
デッカクて、色も匂いも、最高にうまそうだ！
指でつまむと、パリパリ感が、俺のこだわりのパリパリとぴったり！
「うまい！」「本当にうまい！」うますぎて、スルッとのどに入っていってしまう。
2人前の大きさなのに、気がついたら俺一人であっと言う間にたいらげてしまった。

と、そこへナポリタンが！
これもうまそうだ。麺の太さ具合、照り、トマト味の色！
「ちょっと、俺にも」と、皿に分けて食べてみる。
「うまい！」
俺もナポリタンには目がない。
「うーん、これもうまいなあ。家庭的っていうか、みんなに愛されるナポリタンだな」

最近はどこへ行っても≪イタリアン≫。日本人ってこんなにイタリアンが好きだったか？と思う位、
小綺麗な、洒落た構えの店が次々とオープンして。どこも女性でいっぱいだ。
ああ、 こういう、ちょっと気取った、すました感じのイタリア料理が好まれる時代なんだな、と思いながらも、
俺はそういう店でいつもどこか居心地の悪さを感じていた。
が、この「タパス＆タパス」は、浪速節人生の俺等でも、一緒に楽しませてくれる。俺にも合っている。
大皿いっぱいのピザとパスタは、あっと言う間にきれいになくなってしまった。

レジへ向かうと、店の若い男女のスタッフたちが
「ありがとうございました！」と、全員で明るく声をかけてくれる。
「おいしかった。ありがとう」と言うと、みんな、嬉しそうに笑顔で答えてくれた。
そして、料金の手頃なこと。
そういうみんなの気持ちが、あんなにおいしい料理をつくっている。
だから、一度行ったら、何度も足が向く。
うまいし、安いし、楽しいし、気持ちが良い。
いつも満員で、たまにはべンチで待ったりするかも知れないが、外で喋っているのも楽しいかも知れないナ。
気持ちの良い店だから。
年中無休。16時から17時の1時間だけ休憩がある。
メニューは色々あって、 どれもきっとうまい！

タパス＆タパス 用賀店
〒158-0097　東京都世田谷区用賀4-9-7　ARUIGUSビル1F
03-3708-7033
http://www.tapas-tapas.com/