八名信夫の うまいもん紀行


アップルパイとコーヒー
湯布院 「玉の湯」

湯布院へ行くと、必ず寄りたくなるのが、『玉の湯』の喫茶室。
入り口でケースにアップルパイをみつけると、無邪気に嬉しくなる。
「アップルパイとコーヒーお願いします」
係の女性も“八名さん、お気に入りのですね”と、
口には出さないけれど、心得て下さっていて、笑顔で答えてくれる。

ともかく、このアップルパイ、日本一おいしいんだ。
薄く長四角の形をしたパイで、パリッとした皮の歯応えと、
その中にびっしり詰まっているりんご!
シナモンもほど良く入っていて、何とも言えず上品で至福の味がする。
あまりにおいしくて、2枚3枚とお代わりをしてしまう。

日差しが、四季折々、やわらかく入っている。
玉の湯の玄関が見えるガラス張りの細長い喫茶室。
四〜五組も入ればいっぱいの店は、大人のお客様がゆっくりくつろいでいる。
窓の外には小さな庭もあって、湯布院らしく、
雑草や季節の草花をそのままの美しさで、楽しめるよう工夫されている。

この前訪ねた時は、玄関で門松の飾り付けが行なわれていた。
会長の溝口薫平さんが、自ら手伝っていた。
「八名さん、通りを歩いて来られましたか?」
「お客さんが増えましたね? クレープの立ち食いスタンドや
コロッケ屋、どこにでもある土産物を並べた店も並んでいて、
原宿か表参道にでも迷い込んだようでしたよ。
歩きながら食べている人も多く、食べかすや紙屑のゴミを
街にまき散らかして、ナンカ湯布院じゃないみたいでした」
「えー。お客様が沢山いらして下さるのは嬉しいのですが、
本当の湯布院をどうしたら楽しんでいただけるか?
ブームがワーッと来ると、それはまたあっと言う間に
引いてしまいますから。私たちは、実は悩んでおります」

『玉の湯』の溝口薫平さんと、『亀の井別荘』の中谷健太郎さん。
ともに俺より1つ上の先輩。
この二人が「湯布院の湯布院らしさ」を、創って来たのだ。
薫平さんと健太郎さんが、一生懸命に街の人たちと話し合って
湯布院の自然や野菜を使って、お客様を心からもてなすことで、
湯布院のファンの輪を広げ、今日の湯布院の人気をこつこつと築いて来た。
「一度訪れてみたい街」「もう一度訪ねたい観光地」というアンケートでは、
湯布院が常にトップを取るようになった。

湯布院の人たちが大切に作り上げて来ているこの湯布院を
【儲け】という考えで荒らし回る人たちが、これ以上入り込まないように。
又、たまたま【商売目的で入って来た人たちでも】、
湯布院の人たちの心に触れて、その素朴な心、あたたかいふるさとへの思いやりを知って、
たくさんの宝物を学んで貰えたらどんなに良いだろう、とそんなことを思った。

俺は、「玉の湯」のアップルパイとコーヒーに、湯布院の魂を感じるんだ。
薫平さんと健太郎さん両先輩に、いつまでも
「湯布院は俺たちの街だ。勝手は許さないぞ」と、厳しく目を光らせて欲しいと思う。
元気に、頑固に、と。

絵手紙と、届いた季節のおくりもの

由布院 玉の湯
〒879-5102 大分県由布市湯布院町湯の坪
0977-84-2158
http://www.tamanoyu.co.jp/


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