八名信夫の うまいもん紀行


昭和のなごり町で出会った おくゆかしさ
くらや 衆楽雅藻(津山市)

幼い頃の子守歌は、蒸気機関車の汽笛だった。
ポーッという、物悲しい汽笛。ガタンゴトンガタンゴトンという
汽車が走って行く音。枕元に、いつもその音があった。
父親が国鉄津山駅の駅員だったので、
3歳から5歳頃迄、俺の遊び場は、津山駅の構内だった。

昨年春、仕事で出掛けて、津山駅に降り立った時、
ホームの先に操車場が見えた。
「ああ、この操車場だ! ここに官舎があって、住んでいたんだ!」
懐かしさに、立ち止まってしまった。
「ここで蒸気機関車を眺めていたんだ。
真っ黒なでっかい牛が、鼻から白い息を吹き出しながら、
足を蹴って、今にも飛び出そうとしているみたいで。
それを見るのが嬉しかった」
「友達を貨車に乗っけて、扉を閉めたら、貨車が走って行ってしまって!
友達は泣くは、親父に叱られるわで、大変だったナア」
3つや4つの子供がナ? なんてことをやっちまったんだろう?

駅を出て、広い川を渡る。
その川にも、見覚えがある。
きっと、この川でわんぱくをして、おふくろが謝りに走ったんだろう。

津山は、岡山県と鳥取県を結ぶ主要都市。
戦前は、鉄道が物資や人々、文化、経済、あらゆる物を運んでいた。
津山市は、津山駅を中心に繁栄の限りをつくしていたんだそうだ。
その国鉄津山駅の重役だった親父は、当時30代。
精力的に働いていたんだろうな、などと街を歩きながら、考えていた。


静岡県・大井川鐵道にて(アサヒ芸能 守屋要氏提供)

そんな昭和初期の町並みを、街の人たちが遺している場所がある。
懐かしい家々の様子に、思わず足もゆっくりになる。
格子戸を開けて、一軒の民家に入ってみる。

黒光りした階段を上がって行くと、展示会が開かれていた。
90歳の地元の男性が、竹を焼いて行灯や箸、洒落た生活品をつくり、展示していた。
地元の女性たちが、ボランティアで手伝いをしている。

1階は喫茶室。
昭和初期の洋館。懐かしい家具や思い出の品々が並んでいる。
丁寧にいれられたアイスコーヒー。
大きなテーブルに座って、庭を眺めながら町の人たちと飲む。
良い風が入って来る。

「津山をもっと魅力的な街に。
津山でなければ出来ないことを。経済的にも元気のある街に!」
と、若い皆さんが頑張っている。
株式会社マルイの松田欣也社長。
「一番新鮮で、おいしく安い魚、肉、野菜を。
津山の皆さんが、笑顔で喜んで下さるように。それが最高の儲けです」
住宅地を中心に、街のあちこちでみかけるマルイのスーパーは
どこも家族連れで賑わっていた。
地域のお客様の目線に合わせた品揃え。
出来たての惣菜もうまそうで。俺もついさつま芋の天ぷらを買ってしまった。
松田さんの仲間は“子供たちを大人が愛情を持って守って
育てていかなければ”という活動も熱心に続けている。
(実は、その活動の一環で、俺も松田さんと出会った)

株式会社マルイ
〒708-8505 岡山県津山市戸島893-15(本部)
0868-28-8111
http://www.maruilife.co.jp/

その仲間の一人が“くらや”の稲葉伸次さんだ。
松田さんもそうだが、稲葉さんも良い顔をしている。
(悪役の俺が言うのだから、本当だ)
前に向かって何かをしようとしている人には、輝きがある。
“くらや”は和菓子屋。
遠くからいらしたお客様も、ゆっくり和菓子を楽しめるようにと、
くつろぎのコーナーもあって、
和菓子を通してのふれあいを大切に考えている。
俺は、わらび餅を食べた。うまい!
吉野の葛をつかって、こだわってつくっているそうだが、
ツルッとのどごしが実に良い。
思わず、土産に一箱買ってしまった。

“くらや”の【衆楽雅藻】という和菓子も、
城下町津山らしい上品なひとしなだ。
羽二重餅。あんは、白味噌に梅の果肉を混ぜて、
白あんにして、羽二重餅に包んでいる。
姿形も味も、品が良い。
津山藩の殿様が造った庭園“衆楽園”をも連想させる。
“くらや”の本店以外にも、津山にしか置いていないという
こだわりも稲葉さんらしい。
全国の友達に贈ったら「お前らしくない、品の良い菓子だな」
とみんなに喜ばれた。

くらや
〒708-0824 岡山県津山市沼77-7
0868-22-3181
http://www.kuraya.jp/

【メモ】
津山へは、岡山駅からJR津山線で、山や川を眺め、季節を楽しみながら出掛けるのも良い。
最近は、土日祭日ともなると、若い人たちや家族連れで賑わっているそうだ。
自転車を借りて、“津山駅”から“懐かしい昭和の町並み”“衆楽園”“津山城址公園”、
それから“稲葉浩志君の小中学校や高校”“生家”“お兄さんの店【くらや】”を訪ねるコース。
俺も知らなかったが、B'zの稲葉浩志君は、すごい人気なんだなあ。
たしかに、大阪の友人に【衆楽雅藻】を持って行った時、そこの従業員の娘が
「あ、私もこの前【くらや】へ行って来ました」って話していた。

今、津山では『懐かしの鉄道展示室』が開かれているそうだ(11月24日迄)。
旧津山扇形機関車庫(1936年建設・親父のいた頃だ!)
日本に1台しかない『DE501』『DD51』など貴重な鉄道文化遺産がある。
詳しいことは、 懐かしの鉄道展示室見学係 086-225-1179へ

津山市役所
http://www.city.tsuyama.okayama.jp/


※衆楽雅藻と店舗の写真はくらや様のサイトから、許可を得て転載致しました。
※転車台と城東町並み保存地区の写真は、津山市観光振興課様からお借りしました。

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