こうして俺達は<悪役商会>になった

テレビドラマの撮影の合間、
東京の刑事物や京都時代劇の撮影現場などで悪役達と一緒になると、
「八名ちゃん、何か面白いことをやりたいね」
「今じゃ、ドラマの台本を待っているだけ」
「待っているだけでなく、自分達でも仕事を創っていきたいネ」
撮影の待ち時間、日向ぼっこをしながらそんな話が出るようになった。

同じ頃、東京四谷の或る飲み屋で仲間と飲んでいたら、
酔っ払いのおばさんがからんで来た。
「オイ悪役! 最近の映画やドラマがつまらないのは、おまえ達のせいだ!
悪役がちゃんと仕事をしていないから、
お前達が強烈な悪役をやっていないから作品がつまらないんだ!」
俺はムッとした。飲みに行ってるところで
酔っ払いのおばさんに何でこんな事を言われなければならないのか。
素人の酔っ払いが、プロの仕事に知った風のことを言いやがって!
酔っ払っているからそのおばさんはしつこくなってくる。
腹が立って来た。当時は一匹狼。血の気も多かった。
友達もキレル寸前の顔をしている。
「出るぞ」ぐっと我慢して二人で外へ出た。腹立ちまぎれに街を歩いた。
ものも言わずに歩き続けて、しばらくして信号で止まった。
「オイ、当たってるだけに腹が立つナ」
「俺達、確かにどっか媚びてきてるかもしれねえ。
 ちゃんと悪役やってるつもりでも、どっかで自分を殺して
 『監督さん、主役さん、又使ってもらえませんか?』
 なんか媚びてきているような気がする」
「痛いとこツカレタな」
「悪役らしく、俺達でちゃんと始めよう!」
北風の寒い夜だった。


悪役の悪役による悪役のための・・・

まず、4月に悪役だけの舞台をすることに決めた。
俺が俳優集めと金集め、台本と演出は山本昌平、二人で役割分担をした。
集まった悪役は12名。
東映出身、日活出身、舞台、時代劇出身、35歳から70歳迄、
いずれも個性派ぞろいの悪役達だった。
食うか食われるか、悪役のライバル達の集まり。
それぞれが体を張って悪役人生を20年から40年、
自分で切り開いて来ている悪役達だった。

ちょうどその頃、
前の年、たまたま出演した自主映画の試写があって、たまたま出掛けた。
普段はあまりそういうところへ出掛けないのだが、
それが運命というか、その時は出掛けた。
金のない若者二人が、殴られ屋という商売を思いつく。
金さえ貰えば、どんな人でもどんな方法でも殴られる。
俺は刑事役。その若者二人がなにをやって生きているのか分からない、
二人を怒鳴りながらも気づかう、人情刑事だ。
昭和57年、赤坂の小さなスタジオで、VTRで撮影していた。
ビデオで撮影してビデオで編集、
それからフィルムに起こしてカンヌ映画祭に出品すると言っていた。
今思えば、その後昭和64年頃から映像の世界に新しく登場した
Vシネマの最初の作品になるんだろうナ。
そのやり方に金を出してカンヌに作品を持って行くようにしたのが、
今のうちの鬼ババア社長なんだから、これはびっくりするよナ。
俺も映画俳優だからわかるが、
映画人たるものビデオで映画を撮るなんて、当時は全く認めなかったと思うよ。
俺だって、現場に行ったらテレビじゃあるまいし、
ビデオカメラが一台回っているだけ。
監督とプロデューサーはモニターを見てるんだから、
それを映画と思えという方がおかしいと思った。
しかし、時代の流れというか、技術の進歩と予算、人件費材料費などの都合から、
7年後位にはVシネマという新しい世界が出来ていった。
ちょっと横へそれたが、試写の後、スタッフと近くの喫茶店へ行った。
そこで話したことが今日の悪役商会をつくったんだから、
人生の出会いというのは、不思議なものだ。
確か昭和58年の1月初め、赤坂の店でケーキと紅茶を前にして
俺は4月に悪役だけで舞台をすることを話した。
「主役もスターもいない、悪役だけの舞台は面白いと思うんだ。
 仲間達の為にも何とか成功させたい」
「それは良い。たのきんとか松田聖子、中森明菜。
 テレビがだんだん子供の時代になってきているから、かえって
 ベテランの大人の俳優さん達が集まって楽しい事をするのは良いかもしれない。
 うちの映画にボランティアみたいなギャラで出て下さったのだから、
 是非協力させて下さい」
それからは冗談でも話しているみたいに、アイディアが膨らんでいった。
「例え、何かがあっても、冗談で始めるんだから楽しむ気分でやりましょう」
そう言いながら。


メンバーの条件

まず、野球に名球会があるように、この悪役グループにも入会条件をつくる。
俺が元プロ野球だから、そんな事をスタッフと考えた。
「700回以上殺されて、2000人以上殺した悪役俳優であること」
映画全盛期の頃は、一月3〜4本は映画に出て殺すは殺されるは、
30年〜40年悪役をやっているとそれ位の数になる。
しかも集まった俳優達は悪役ばっかりやっているから殺した殺されたの数も多い。
極悪俳優だナ。

メッセージは「今までやった事のない仕事をやってみたい」
「台本を待っているだけではなく自分達のやりたい仕事を自分達で創っていきたい」
芸能界で何かをはっきり言う事は難しい。
今でも大変な思いをしている人も多いと思う。
特に20年近く前はこんな偉そうなことを俺が言ったら、
仲間の家族の事まで含めて考えなければと覚悟は決めていた。

スマートな悪役。格好良い悪役。男っぽい悪役。
そのイメージの写真を撮ることにした。

これからは若者、子供達、女性達が消費、文化の社会の主導権を握っていくから、
まず若者、子供達、女性の多い所に売り込もう。
俺達悪役は、どっちかと言うと、
今までは夜の街の女性か本物のやくざさん達がファンだった。
それを急に若者や子供、OL、主婦と言われてもどうしていいか分からなかった。
そういう番組やマスコミに売り込んでいくと言う。

ケーキを食いながら、冗談めいて、話は面白おかしくどんどん膨らんでいった。

「記者会見をやりたいな。
 俺達悪役は記者会見というものをやったことがないんだヨ」
「それ、良い!金屏風を前にして」
「金屏風。いいねいいね。あいつら喜ぶよ」
「ホテルとかナンカ立派な劇場や会場でネ」
「映画会社や局が主役やスターでやるやつ」
という訳で、記者会見もやることになった。


「悪役商会ヒストリー3」へ
「悪役商会ヒストリー1」に戻る
「悪役商会ホームページ」に戻る