八名信夫の うまいもん紀行


悪役商会半纏
(近藤染工場・旭川)

北海道に、留萌(るもい)という街があって、
真冬3月に祭りがあるから、そのイメージキャラクターとして
出演して欲しいと言われた。
「やん衆どすこほい祭り」
「やん衆」とは、留萌が鰊(ニシン)場として栄えていた頃、内地(ナイチ・本州)から
出稼ぎに来ていた男たちのことだそうだ。
荒れる日本海の波、吹雪も物ともせず、鰊場に挑んで行く男たち。
その男っぽさが、八名信夫と悪役商会にある。
そう言われて、総勢15名で出掛けて行った。

祭り一番の出し物は、人間輓馬(ばんば)競争だ。
北海道名物の輓馬競争というのは、道産子の馬に、米俵を積み上げた馬橇(そり)をひかせる。
それも、荒れた山道を一気に登らせるのだ。
北海道開拓の頃から、人馬一体となって、山を切り開き、畑を耕して来た。
馬と人との信頼関係がなければ出来ない競技だ。
「やん衆どすこほい祭り」では、人間が馬の替わりに走る。
雪原に山坂、数々の難所をつくって、
大きな鰊船に山のような米俵を積んでいる。
俵の中身はずっしりと重い砂だ。
馬の替わりの引き手は6人。
悪役商会は、ゲストとして参加することになった!

消防署、自衛隊、青年団、高校生、漁師連合…平均年令10代から30代。
全チーム、べテランの強豪揃い。
俺たち悪役商会は、平均年令48歳。顔は強烈だが、全くの初心者。
「ヨーイ、ドン!」
氷点下、吹きっさらしの広場。風に雪も混じる。
雪国に慣れていない俺たちは、既に手足の感覚もない。
歯がガチガチ言う位、冷えきっている。
それでも、やるだけやってやれ!
俺も先頭を切って、全員無我夢中で突っ走った。

「オリャア!」
なんと、悪役商会が一番だ!
坂を登る。険しい登りだ。足を取られそうになりながら、
「オリャア!」全員で駈け上がる!
「ああ!」最後の一歩で、自衛隊が、先にゴール!
「八名信夫と悪役商会、2位! ナント、初出場で2位です!」
俺たちは、バッタリ倒れてしまった。

その夜の酒のうまかったこと!
「悪役商会の墓を、留萌に作りましょうよ。自分たちが守りますから。
八名さんたちのお陰で、祭りがこんなに盛り上がって、
ナンテお礼を言ったら良いか!」
主催の青年たちが、30人も40人も次々にやって来て、
その都度、返杯をしていたら、一人で一升分飲んでしまった。
帰りの雪道、足をとられて、何遍もすべって転んだ。
留萌は鰊場、鰊の銀色のうろこで街が光ると、春がやって来たそうだ。

「男度胸だ 五尺の身体 どんと乗り出せ 荒波へ チョイ」

このソーラン節の男っぽさを、半纏に出来ないか?
どこに頼んだら、俺のイメージにぴったりなのを作ってくれるだろうか?
それからずっと探していたら、北海道の旭川に近藤染工場があると教わった。
近藤弘社長が、たまたま俺たちのことを知っていて、
みごとな半纏を作ってくれた。

シャキッとした、芯のしっかりした綿(めん)。
張りのある素材で、いつも真新しい格好良さで着こなせる。
藍色に白で【悪役】の文字を背中に。
身頃から長い裾一面に、北海道日本海の荒波を、勢いよく描いて貰った。

「浜のアネさは おしろいいらぬ 銀のうろこで肌光る チョイ」

黒の上下の上に半纏を羽織り、ソーラン節を踊ると
客席から歓声が上がった。
又、うちの俳優たちが舞台で【仁義】をきって自己紹介する時にも
この半纏を着る。
悪役の文字が浮かび上がるように、全員後を向いて、振り返って
一人ずつ前に出てきて、仁義を切る。
舞台の盛り上がること!

うちの舞台は、歌に踊り、たちまわりと、これでもかこれでもかと
お客様を楽しませるので、俳優たちは秒単位で走りながら着替えている。
この半纏も、汗びっしょりで脱ぎ捨てられては、
風にあてられ、たたまれてしまわれる。
が、20余年たっても、新品同様、形崩れひとつない。
近藤染工場の職人の皆さんの技のお陰ダナと、いつも感謝している。

大漁旗、半纏、のぼり。
近藤染工場は、働く男たちの情熱、粋、苦労も喜びも
しっかり受けとめて、きっちりした仕事をしてくれる。
映画【網走番外地】を撮影した層雲峡の近く、というのも不思議な縁だ。

近藤染工場
〒070-0031 北海道旭川市1条通3丁目右1
0166-22-2255
http://www.kondo-some.co.jp/

※「やん衆どすこほい祭り」は、「萌っこ春待里(はるまつり)」に変わったそうだ。
人間輓場競走は今も行なわれている。(毎年3月上旬に開催されている)
萌っこ春待里 Official site


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