八名信夫の うまいもん紀行


土のにおい ぬくもり
備前焼 〜松園〜

ふるさと岡山に、備前焼がある。
素朴な土の色。たっぷりおおらかな形。
備前焼は、生活の器だ。
毎日の暮らしに使えば使うほど、味わいが分かる焼き物だ。

うちの備前焼たち

どんなに美しい皿や、高価な壺があっても、
俺は、やっぱり備前焼を選んでしまう。
部屋に、備前焼の壺が置いてあるだけで、やすらげる。
自然のあたたかい心が感じられる。
ぬくもりが伝わって来る気がするんだ。

子供の頃から、家に備前焼があったし、
親父の影響もあるなあ。
親父は、美術骨董品が好きで、蔵いっぱいに集めていた。
そして、小中学生の俺に、
本当に良い物とは何か? 良い皿や美術品の扱い方など
蔵に入っては、教えてくれた。
その時に、備前焼の話もしてくれて、
備前焼の高価な美術品も幾つも持っていたのに、
何故か、暮らしの中で使える備前焼の器について、丁寧に教えてくれた。
だから、俺も備前焼が好きになったのかも知れないなあ。

備前市香登。
登り釜の大きな煙突があちこちに見える。
のんびり歩いて行くと、いくつかの窯元の店に出会う。
店先の作品を眺めたり、中に入って備前焼を楽しんだり。
ああ、 ここが備前焼のふるさとなんだなあと、
そういう旅に出掛けるのも良い。

そして、俺は、備前焼の窯元【松園】(しょうえん)へ、足をのばす。
松園は、暮らしの中の器をつくっている窯元で、
ショールームをのぞくと、花瓶、茶碗、ビールジョッキ、皿、丼…
みんなが「使って」と、言ってるように見える。
生きている。呼吸をしているように見えるんだ。
色がいい。
(他と同じように)良質の陶土からつくった器を、高熱で何日も焼いて、
あとは自然のまま。人工の釉薬(うわぐすり)は使っていない。
なのに、松園のものは深い土の色、金色がかった色合が出ている。
壺の形も、ゆったりとおおらかで、いつ見ても飽きない。
優しさがある。

松園の壺

奥さんの武用春実さんが、また個性的な作品を創る。
男っぽい四角い皿、花瓶でもどっしり堂々とした作品。
普段は控えめな優しい方なのに、のびのびとした作風で、
これがまた楽しい。

真ん中が武用春実さんの作品

たまにふらっと寄ると、お茶をいれて下さって。
備前焼の茶碗で飲むと、おいしいんだ!
何千個もの備前焼に囲まれて、備前焼で飲むお茶は格別だ。

花を活けると、花が引き立ち
水やお茶がよりうまく、長持ちする。
備前焼は、自然の土と火から生まれているから、
何年たっても、味わいが変わらない。使えば使うほど、味が出て来る。
俺の、一生の相棒だナ。

松園にて。故・武用一貫さんと、春実さん

備前焼 窯元 松園
〒705-0012 岡山県備前市香登本538
0869-66-9138
http://www4.ocn.ne.jp/~shoen/


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